角田光代さんは好きな作家のひとり。
しかし「八日目の蝉」はテレビドラマも単行本もスルーしてしまい、
映画封切り前に、慌てて文庫版を読んだ。
誘拐犯・・となるヒロインは自分と同世代で、
誘拐された赤ん坊・・もうひとりのヒロインは自分の娘と同世代。
だから、物語の随所に出てくる時代背景がすんなり頭に入り、
もちろん、作者の筆力の凄さがあって、あっという間に読み終えた。
大人の女たちはすべて自分の人生を選べる立場だ。
誘拐犯となった女は、愛人の立場を貫く、男と別れる、
男を離婚させて自分が妻になる、という選択肢があり、
子どもを誘拐された女は、だらしない夫と別れる、
夫と愛人ときっちり別れさせて家庭を再生させる、
という選択肢があったはずだ。
でも、ふたりの女はどの選択もしないまま時が過ぎ、
子どもを誘拐する、誘拐される、という展開になっていく。
誘拐された赤ん坊や、その後夫婦の間に生まれた赤ん坊は、
大人たちと違って自らの人生のはじまりを選べない。
後半、赤ん坊から成長したヒロインは、
なんとか自分の力で人生を「選んで」いこう、とする。
その描写がとてもきめ細かく鮮やかで、さすが角田光代さん。
ただ、現実に女の子を育てた母親たちにしてみたら、
前半のヒロインが、
これでもかこれでもかと赤ん坊を愛してやまない描写には、
違和感を覚えるかもしれない。
原作、テレビドラマの後を引き受ける、映画の開幕はもうすぐ。
永作博美さんも井上真緒さんも好きな女優さんだから、
どう演じてくれるのか楽しみだ。